伝統構法ブログ

伝統構法って、どんな構法!?在来構法と何が違うの!?  伝統構法の今を伝えるブログ「伝統構法ブログ」

小坂建設株式会社

伝統構法と耐震性能

日付 題名 分類

高木家 その4

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について, 実験・理論

建物の重心と剛心を求め、偏心率を調べます。

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1、2階とも0.15以下です。

高木家を通して、伝統構法の良さ、特徴を構造計算から学ぶことができたのは、とても大きな成果でした。
この建物の作り方のエッセンスを、現代の新築住宅の設計に生かすことが、私たちの役割と考えています。

次回は、これからの家づくりとして、高木家に準拠する性能を持つ、現代の家づくりについて、ひとつご提案させて頂きます。

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高木家 その3

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について, 実験・理論

地震時、建物がどの位傾くかを確認します。


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1次設計においては、最大変位で、約9mm。最小変位で、約4mm。
2次設計においては、最大変位で、約30mm。最小変位で、約14mm。

阪神淡路大震災以上の加速度がかかっても、3cmしか傾かない事になります。
このことは、剛性の高さを示しています。

現代の筋かい、金物を用いたつくりは、同様に剛性の高いつくりとなっています。この点においては、伝統構法も、現代の工法も同じですが、剛性を得る為のアプローチの方法が、決定的に違います。
現代の工法は、筋かい、金物に依存するのに対し、伝統構法では、木のしなりを生かして対応します。

筋かいや、金物では、1回の地震には対応できても、繰り返して元の強度を復元することは不可能です。つまり一発勝負です。これに対し、木のしなりは、何回でも復元できます。そのため、高木家のように繰り返し大きな地震にあっても、元の姿を維持することが出来ます。

伝統構法は、柔構造でありながら、剛性も備えた2段構えのつくりです。

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この柱、梁、全て200年前のものです。

つづく


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高木家 その2

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について, 実験・理論

その1からのつづき

まず軸組みからです。
土壁の部分を除いた壁は、全て差し鴨居と梁、または、鴨居と梁といったダブルラーメン構造で、伝統構法の基本的な組み方で構成されています。

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各通りの剛性を調べると、まず通りごとのバラツキが無いことがわかります。この点が、現代の間取りと決定的に違う点です。日本の本来の建築様式は、柱を碁盤の目のように配置して、空間を構成していくのが正しい手順です。

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こうやって作ることによって、自然に剛性バランスが揃い、あとでも触れますが、建物の重心と剛心のズレが小さくなり、かつ、通りごとの剛性の差が小さい為に、地震時には、建物全体が、どの方向から負荷がかかっても、一様に動くことができ、ねじれも小さく済むのです。

現代の家づくりは、間取りから考えるため、壁の線で構成していくために、最も肝心な柱の位置が、バラバラに配置されて作られます。
その為、床を硬く作り、力づくで、建物の動きを抑え込まなければならず、柱頭や、柱脚を金物で補強する必要が生じます。

「我々は、達人では無いけれど、達人の伝統を踏まえて作っているのだから、間違いない。」西岡常一棟梁の言葉です。

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つづく


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高木家 その1

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について, 実験・理論

奈良県橿原市にある重要文化財、高木家。
江戸時代後期に建てられたものです。
M7以上の地震をこれまで8回以上受けたにもかかわらず、今も建ち続けている建物です。

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この高木家を伝統木構造の会で、昨年、半年間に渡り、数式のない構造力学の著者、増田一真先生を講師に迎え、構造解析を行いました。

柱の寸法は実測で12.7㎝角ということで、創建当時はおそらく、 四寸五分 (13.6㎝角)であったことが、推測できます。そうなると、木は、200年の間に、約9mm収縮すると考えられます。

もし建物を200年、もたせたいと考えるのならば、この収縮を考慮して造ることが大事です。二次設計で、あらかじめ使用部材の寸法から9mmを引いて、断面算定を行い保有水平耐力を満たしておくという設計思想です。

普段何の疑問も持たずに4寸角の柱を使っていますが、この解析を通して根本から見直していくうちに、この200年も前に建てられた建物が、いかに優れた性能を秘めているか思い知らされることになります。

つづく

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2段かまえで造る

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について

耐震等級1というのは、建物の全重量に0.2を掛けた値をP(0.2×W)とし、このPをちからに置き換えて、建物の横からこのPを加えたときに、こわれない強度をもったものをいいます。

DSCF2459.JPGうちの奥さんが書きました。

この時の0.2という係数を標準層せんだん力係数といいます。
耐震等級2というのは20パーセント増しの0.2×1.2=0.24を掛けた値P(0.24×W)に対して壊れない作り。
耐震等級3は、0.2×1.5=0.3を掛けた値P(0.3×W)に対して壊れない作りとなります。

地震の大きさを測る数値で、gal(ガル)というものが使われます。
震度6強でおよそ400ガル。この400ガルが国の耐震強度の基準なっています。
400ガルに対して建物が損壊に至っても、倒壊には至らないという定義です。

阪神・淡路大震災では、800ガルを超える重力加速度が計測がされていますので、ほぼ倍。この力の大きさは、建物の全重量のおよそ8割のちから(P=0.8×W)が、横から加わったことになります。

大震災以降、大地震に対応すべく、耐力壁をたくさん増やして、柱と梁の接合部をより強くする法改正が行われました。しかし、硬く作れば、それだけ振動が建物にダイレクトに伝わります。たとえ建物が壊れなくても、中の人間はおもいきり揺さぶられることになります。そして限界を超えると、一瞬で倒壊することが予測できます。家さえ壊れなければ、中の人は安全といいきれるのでしょうか?

地震は建物の硬いところをターゲットにします。その意味で耐力壁は、家を守る砦であると同時に地震のターゲットでもあるのです。
一般工法の場合、耐力壁以外の柱には、耐力はほとんど期待できません。したがって耐力壁が壊れると即座に倒壊してしまいます。

これに対し、伝統構法の場合は、柱の耐力を生かすことが可能となります。柱頭と柱脚をそれぞれ桁固め、足固めで固定することによって、木のしなりを生かした曲げ応力を発揮させます。土壁という耐力壁の他に、柱の曲げ応力という2つ目の手段をもっているのが伝統構法です。つまり、セーフティネットを2つ持っていることになります。

伝統構法では、柱の耐力を生かすことが可能になるため、土壁の耐力と合わせた、合計耐力は、建物の全重量のちから(P=1.0×W)が加わっても持ちこたえるつくりが可能になります。

地震時、初期段階では、まず剛性の高い土壁で地震力を受け止め、壁の耐力能力を超えたら柱に受け渡す。通し貫、差し鴨居などでつながれたすべての柱が、一斉に揺れに対応する2段かまえのつくり。

柔構造ですから、周期の長いゆったりとした揺れとなり、この点においても硬く作られた家に比べ、中の人間へのダメージを軽減することができます。さらに石場建てにおいては、究極の揺れに対して、地面からジャンプして逃げる3段かまえのつくりとなります。

これからの時代は、家づくりだけでなく、食べ物や、仕事も、生き方も、個人個人の自己責任が問われる時代だと思います。次の時代に責任の持てる家をつくる事が、伝統構法に託す僕の希望でもあり、奥深い伝統構法との格闘の毎日となっています。

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