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石場建て構法 ♯3 壊れようのない作り方 その2

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について

剛床という言葉を耳にしますが、許容応力度設計においては、床が、壁より先に壊れてはならず、また、床が一定の剛性をもたないと、地震時に力が均等に、各鉛直構面(耐力かべ)に伝わらないから、床は硬く、剛床につくらないといけないといった設計条件を要求されます。
しかし、震災後の栄村の調査では、震度6強の強い揺れにあっていながら、築300年クラスの古民家は、まったくの無傷で建っていました。
また、築90年クラスの古民家においても、土壁のはがれ等はあっても、床の構造が損傷を受けている例は、一件もありませんでした。これらの建物は、すべて床は柔床です。剛床ではありません。
ようするに国の設計条件と、事実がかい離しているのです。


床板や梁が水平方向に破壊するということは、現実にはありえないといっていいと思います。長年構造体と付き合っていますが、この破壊はどう考えてもイメージしにくい。床の作りにかかわらず、地震時には、鉛直構面(柱と梁の接合部、柱と土台の接合部)の破壊現象の方が、水平構面(床)より先におきると考えた方が、資料として残されている災害事例を見ても、筋が通っています。逆に水平構面を固く作ってしまえば、柱と梁の接合部分にかかる負担が増え、この部分の破壊が増えることになります。これは、感覚でも十分理解できますし、実大実験でも明らかになっています。

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同じ地区にあって、無傷な古民家(上)と、柱と梁
の接合部が損傷した家(下)・今はこの部分をプレートで補強することが義務付けられています。
(於 栄村震災調査)

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理論は大事ですが、理論の発展以上に一番大事なことは、現場や歴史の事実と向き合い、その中から生まれてくる設計思想です。理論だけで物事を否定してしまえば、理論はどんどん現場から乖離し、行き着くところは、結局、筋違いや、プレートで補強すればいいんじゃないかとなります。

注目すべきことは、石場建て柔床構造の方が、剛床よりも折損現象が起きにくい、という事実であり、剛床を設計条件とする基準法の考え方は、このことに目をつむり、独立した柱の挙動解析が非常に困難であることから、床の剛性を確保することによって、計算の単純化をはかっているだけにすぎないと僕は思います。

伝統構法の研究者たちの最先端にいる方たちは、石場建て柔床構造が、壊れようのないつくりであることは、すでに認識されています。
設計のポイントとして、まず、建物を俯瞰して見る(近づいて細部にこだわってしまうと、全体が見えなくなる)。計算に全てを頼らずとも、全体の剛性バランスをおおまかに整え、仕口部分をできるだけ多くつくっておきさえすれば、それで壊れませんよ。という研究者の言葉は、歴史の事実と、実験・研究の両側から伝統構法の本質を捉えた言葉で、この時の教授とのやり取りが、その後の僕の出発点となりました。