松代
長国寺総門改修

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お寺の総門の改修工事をすることになりました。

 

門は傾き、いまにも倒れそうになっていました。

竣工

改修前

なぜこんな状態になったのでしょうか。

主な原因は2つあります。

まず1つの原因は、柱の足元をコンクリートで固めてしまったことです。

住宅でも基礎にアンカーで土台を固定するつくりでは、この門と同じ状況になります。
足元を固定するつくりは、建物にとって倒壊のリスクを大きくするだけで、何一つ良いことはありません。

以前、なぜ、基礎コンクリートに土台を固定することに国はこだわるのかという質問をしたことがあります。
それに対する答えは、構造計算を成立させる為には、動かないという条件が必要になるからだろう。と聞いたことがあります。
確かに石場建てにして足元フリーの構造は、地震時の柱の解析は難解になります。
しかし、その安全性は歴史の中でも実験でも証明されている事実があります。

いままで何度も大きな震災の度に建物が数多く倒れ、計算方法の見直しが行われてきました。
しかしあくまでも足元を固定することから決して離れようとしない。
一番守られるべきものを勘違いして、見るべき大事なものから目をそらしているように思います。


現代の住宅は、柱も梁も、筋違いや金物で固定しているため、限界を超えると一瞬でぺしゃんこになります。
それに対し、この門は貫の粘りや込み栓によって、大きく傾いても持ちこたえています。

さて、2つ目の原因は、貫と柱の接合部がずれを生じるつくりになっていたことです。

貫が抜けかかっているが、楔がきいて持ちこたえています

貫と柱をしっかりかみ合わせ、そのうえで楔を打ち込んでいれば、ずれは生じませんし、そうすることによって、貫方向の耐力を発生させることができます。

改修方法としては、できれば屋根の瓦をいったん撤去し、梁、柱、貫を解体して、柱、貫を新しく作り直すのが最善でしたが、瓦は土葺きで葺いているばかりでなく、かなり古い瓦の為、1枚1枚の寸法が異なり、棟瓦も一度撤去してしまうと、復元が難しい為、屋根はそのままの状態で傾いた門の改修をすることにしました。

曳家(ひきや)さんの登場です。

静かに門全体を持ち上げて、石から切り離しを行います。

柱脚は、コンクリートで固めていたために、腐れていました。

コンクリートを撤去し、改めて石を設置します。

桧の柱が現場に搬入され、設置された石に合わせるために最終的な加工を現場で行います。
人の手によって鉋(かんな)で仕上げた木の表面は、機械で仕上げたものと違い、水をはじきます。

この工事に参加した大工さん達は、皆、年齢は若いが社寺建築、茶室建築、といった伝統的な日本建築をこなす高い技術をもった大工さんが集まりました。曳家さんもまた、素晴らしい技術を持った職人さんです。

このあと、柱を組み込み、曳家(ひきや)さんに静かにおろしてもらいます。

屋根も無事に、柱の入れ替えを終え、門が再生しました。

通し貫をしっかり柱に剛接合させ、足固めを行い、礎石の上に乗せる。
伝統構法の基本構造です。住宅においても古民家再生においても、基本構造は全て同じ。筋違や金物は一切不要です。


こうして作っておきさえすればあとは、木のしなりと復元力が建物を倒壊から守ってくれます。
筋違や金物に頼ったつくりは、木の耐力に限界を作り、建物の寿命を限定させるだけです。

今回は貴重な工事を経験させて頂きました。

感謝。

各工程