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石場建ての家と
限界耐力計算
建築基準法上、現在石場建て建築は、「土台は基礎に緊結しなければならない」を始めとする『仕様規定』からはずれる為、通常の確認申請は通りません。
その為、別途構造計算において安全性を証明する事が求められます。
限界耐力計算によって、その安全性を証明していくわけですが、通し貫、差し鴨居等の伝統構法を構成する要素を耐力要素として計算に反映し、変形性能および建物質量と剛性のバランスを取る事によって、激震の場合でも建物が倒壊しない事を確認していきます。
合板や金物で固く造られた建物は振動を与え続けると、どんどん建物の揺れが大きくなっていってしまうのに対して、伝統構法のような柔構造の建物は、振動を与え続けても、揺れはそれほど大きくなっていきません。揺れに対して減衰性能をもっているからです。これは建物が制振装置を持っているようなものです。また想定を超える地震に対しては、建物は石の上を滑り今度は免振性が期待できます。
地震時において伝統構法は揺れをやわらげる減衰性能を発揮します。
つまり地震のエネルギーをいなす効果があります。
日本における木造建築の思想は本来、耐震ではなく、制振、免振性を重視してきたと言えます。「想定した地震力」に対してどう作るかではなく、先に自分の建物の耐力の限界点を決め、それ以上の地震に対しては地面と縁を切って飛んだり、ずれたりして逃げるというのが先人の考え方です。
自然の力と対決するのではなく、自然の力にかなわないことを受け入れたうえで造る作り方です。
学術見地のみを基準とする作り方では片手落ちで、木の生育通りに木を扱う事をはじめ、継ぎ手、仕口、木の上下、木表、木裏等、大工の手に受けつがれてきた「職人の常識」も同等に重要視し、双方の両輪で進めていくことが大事だと考えます。
伝統構法は、職人の知恵と技術の賜物であり、木造建築の技術と心の教科書です。
