伝統構法ブログ

伝統構法って、どんな構法!?在来構法と何が違うの!?  伝統構法の今を伝えるブログ「伝統構法ブログ」

小坂建設株式会社

伝統構法について

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2段かまえで造る

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について

耐震等級1というのは、建物の全重量に0.2を掛けた値をP(0.2×W)とし、このPをちからに置き換えて、建物の横からこのPを加えたときに、こわれない強度をもったものをいいます。

DSCF2459.JPGうちの奥さんが書きました。

この時の0.2という係数を標準層せんだん力係数といいます。
耐震等級2というのは20パーセント増しの0.2×1.2=0.24を掛けた値P(0.24×W)に対して壊れない作り。
耐震等級3は、0.2×1.5=0.3を掛けた値P(0.3×W)に対して壊れない作りとなります。

地震の大きさを測る数値で、gal(ガル)というものが使われます。
震度6強でおよそ400ガル。この400ガルが国の耐震強度の基準なっています。
400ガルに対して建物が損壊に至っても、倒壊には至らないという定義です。

阪神・淡路大震災では、800ガルを超える重力加速度が計測がされていますので、ほぼ倍。この力の大きさは、建物の全重量のおよそ8割のちから(P=0.8×W)が、横から加わったことになります。

大震災以降、大地震に対応すべく、耐力壁をたくさん増やして、柱と梁の接合部をより強くする法改正が行われました。しかし、硬く作れば、それだけ振動が建物にダイレクトに伝わります。たとえ建物が壊れなくても、中の人間はおもいきり揺さぶられることになります。そして限界を超えると、一瞬で倒壊することが予測できます。家さえ壊れなければ、中の人は安全といいきれるのでしょうか?

地震は建物の硬いところをターゲットにします。その意味で耐力壁は、家を守る砦であると同時に地震のターゲットでもあるのです。
一般工法の場合、耐力壁以外の柱には、耐力はほとんど期待できません。したがって耐力壁が壊れると即座に倒壊してしまいます。

これに対し、伝統構法の場合は、柱の耐力を生かすことが可能となります。柱頭と柱脚をそれぞれ桁固め、足固めで固定することによって、木のしなりを生かした曲げ応力を発揮させます。土壁という耐力壁の他に、柱の曲げ応力という2つ目の手段をもっているのが伝統構法です。つまり、セーフティネットを2つ持っていることになります。

伝統構法では、柱の耐力を生かすことが可能になるため、土壁の耐力と合わせた、合計耐力は、建物の全重量のちから(P=1.0×W)が加わっても持ちこたえるつくりが可能になります。

地震時、初期段階では、まず剛性の高い土壁で地震力を受け止め、壁の耐力能力を超えたら柱に受け渡す。通し貫、差し鴨居などでつながれたすべての柱が、一斉に揺れに対応する2段かまえのつくり。

柔構造ですから、周期の長いゆったりとした揺れとなり、この点においても硬く作られた家に比べ、中の人間へのダメージを軽減することができます。さらに石場建てにおいては、究極の揺れに対して、地面からジャンプして逃げる3段かまえのつくりとなります。

これからの時代は、家づくりだけでなく、食べ物や、仕事も、生き方も、個人個人の自己責任が問われる時代だと思います。次の時代に責任の持てる家をつくる事が、伝統構法に託す僕の希望でもあり、奥深い伝統構法との格闘の毎日となっています。

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石場建て構法 ♯3 壊れようのない作り方 その2

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について

剛床という言葉を耳にしますが、許容応力度設計においては、床が、壁より先に壊れてはならず、また、床が一定の剛性をもたないと、地震時に力が均等に、各鉛直構面(耐力かべ)に伝わらないから、床は硬く、剛床につくらないといけないといった設計条件を要求されます。
しかし、震災後の栄村の調査では、震度6強の強い揺れにあっていながら、築300年クラスの古民家は、まったくの無傷で建っていました。
また、築90年クラスの古民家においても、土壁のはがれ等はあっても、床の構造が損傷を受けている例は、一件もありませんでした。これらの建物は、すべて床は柔床です。剛床ではありません。
ようするに国の設計条件と、事実がかい離しているのです。


床板や梁が水平方向に破壊するということは、現実にはありえないといっていいと思います。長年構造体と付き合っていますが、この破壊はどう考えてもイメージしにくい。床の作りにかかわらず、地震時には、鉛直構面(柱と梁の接合部、柱と土台の接合部)の破壊現象の方が、水平構面(床)より先におきると考えた方が、資料として残されている災害事例を見ても、筋が通っています。逆に水平構面を固く作ってしまえば、柱と梁の接合部分にかかる負担が増え、この部分の破壊が増えることになります。これは、感覚でも十分理解できますし、実大実験でも明らかになっています。

DSCF0017.JPG
同じ地区にあって、無傷な古民家(上)と、柱と梁
の接合部が損傷した家(下)・今はこの部分をプレートで補強することが義務付けられています。
(於 栄村震災調査)

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理論は大事ですが、理論の発展以上に一番大事なことは、現場や歴史の事実と向き合い、その中から生まれてくる設計思想です。理論だけで物事を否定してしまえば、理論はどんどん現場から乖離し、行き着くところは、結局、筋違いや、プレートで補強すればいいんじゃないかとなります。

注目すべきことは、石場建て柔床構造の方が、剛床よりも折損現象が起きにくい、という事実であり、剛床を設計条件とする基準法の考え方は、このことに目をつむり、独立した柱の挙動解析が非常に困難であることから、床の剛性を確保することによって、計算の単純化をはかっているだけにすぎないと僕は思います。

伝統構法の研究者たちの最先端にいる方たちは、石場建て柔床構造が、壊れようのないつくりであることは、すでに認識されています。
設計のポイントとして、まず、建物を俯瞰して見る(近づいて細部にこだわってしまうと、全体が見えなくなる)。計算に全てを頼らずとも、全体の剛性バランスをおおまかに整え、仕口部分をできるだけ多くつくっておきさえすれば、それで壊れませんよ。という研究者の言葉は、歴史の事実と、実験・研究の両側から伝統構法の本質を捉えた言葉で、この時の教授とのやり取りが、その後の僕の出発点となりました。


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石場建て構法 ♯2 壊れようのないつくり方 その1

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について

どの工法にも言えることですが、地震時において、一番負荷が強くかかり、壊れやすいのが、柱と梁の接合部分です。

一般工法においては、この部分が、時代の流れと共に、強い接合設計がなされ、今では、筋違いプレートと金物で補強するようになりました。コンクリートや鉄で家をつくる人が出てきたのも、強度志向の方向性の結果といえます。

もし、この接合部を壊れようのないものにするとしたら、補強の他にどんな方法があると考えますか?
どんなに強い衝撃がかかっても壊れないようにするには、強く補強するよりも、発想を逆転して、一定の負荷がかかったら、折れ曲がるようにつくってしまえば、壊れません。

人間の骨格に例えれば、骨にプレートをとりつけて補強するのではなく、折れる場所は初めから、関節に変えておけばよい。自然の脅威とは対峙せず、受け入れ、受け流す。

地面が動いたら建物も一緒に動くことによって、エネルギーを受け流す。
石場建ては、礎石の上に載せた柱が、独立して動き、柱と梁の接合部は、主に鼻栓や、込み栓で止め、極めてまれに起こる大地震の時でも、栓の損壊程度ですます。

しかし、この栓も、接合部の部材内部で壊れる為に、折れたら折れたで、こんどは楔(くさび)効果を発揮し、耐力の低下を防ぐという役割を果たします。
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木のしなり(靱性・じんせい)で、エネルギーを受け流し、関節部分をたくさんつくって折れる個所をはじめから無くし、究極の衝撃には建物ごとジャンプして地面から逃げる。どこまでいっても壊れるという現象を回避しまくっているのが石場建てのすごいところです。まるで体のやわらかい忍者のよう。

実大の挙動実験においても、石場建て・柔床構造は、土台敷き・剛床構造に比べ、建物に負荷としてかかる、層せん断力、層間変形角が共に大きな波形を描くことなく測定され(ようするにエネルギーを受け流している)、その結果、折損個所が非常に少ない(ほぼ0)ことが明らかになっています。
この時建物に与えた加振はJMA神戸波(阪神・淡路大震災)ですから、この折損箇所の無さは、驚くべき事実で、こんなにすごいのかとおもわず声がでました。 
 
つづく


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石場建て構法 #1正しい選択

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について

石場建て構法は、日本の建築史上もっとも耐震性能のすぐれた構法であることは、まちがいありません。
この構法で建てるには、残念ながら、基準法上のネックとなる点が、幾つかあり、建てることが困難にされてしまっています。
この点についてはまたの機会にゆずるとして、まずは、石場建てとはどんな構法なのか、感覚的にこの構法をとらえてみるのが、わかりやすいです。

まず、この構法には、コンクリートの基礎がありません。
地面を突き固め、独立した礎石の上に柱を建てます。この礎石が基礎です。
基礎に求められる、本来の性能とはなんでしょうか。

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コンクリートの耐用年数はざっと50~60年程度です。
木は、100年以上持ちます。材をえらべば200~300年、それ以上もたせることも可能です。
石の耐用年数は、数百年~数千年。 普通に考えれば、基礎は、耐用年数が、一番長いものを選ぶのが、正しい選択ではないでしょうか。

人は本来、正しい選択を理屈ではなく、感覚で選択できる能力を持っています。
理屈はわからないけれど、なんとなくこっちの方がよさそうといった感覚です。
特に女性の方が、男性より、この感覚の点は優れていると思います。
話しが横道にそれてしまいました。基準法では、コンクリートの強度ばかりが取り上げられ、耐用年数には目が向いていません。コンクリートの基礎の上にのっている長期住宅など、あり得ない話しなのです。
結局、強度という言葉が、あまりにも多くの勘違いを、生んでしまっている様に思います。

もともと私達は、コンクリートに頼らずとも、金物に頼らずとも、長期にわたって、地震に耐えうる家づくりが出来ていたのだから、素直にその作り方を受継げばいい。そこに何んの心配もありません。

明治維新で、西洋の建築技術が導入され、木造建築に筋かいを入れることに、当時の大工たちは、ものすごく抵抗したと聞き、心が熱くなりました。
レンガとセメントしか知らない者に、木の何がわかる。そういう口惜しさだったのでしょう。

阪神淡路大震災、宮城県沖地震、新潟県中越沖地震、幾つもの極限状況を経て、立ち続けている古民家の存在に、ようやく国も見直しを始めました。 これも正しい選択のひとつです。

関連ホームページ
「伝統構法でつくる家」
「日本本来の家づくり」


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土壁の住み心地 #2

伝統構法と耐震性能, 伝統構法について, 室内環境と土壁

土壁の住み心地 #1からの続き

土壁は、熱容量が非常に大きい為、室内温度の変化が小さく、体への負担が少ないことの他にも、調湿機能は特筆すべき能力を持っています。実験の結果からわかることは、他の建材では湿度を吸収する能力はあっても、吐き出す能力が劣っているため、湿度の上げ下げについていけず、建材内部の水分量が、徐々に増えていってしまうのに対し、土壁は吸った量とほぼ同じ量を吐くことができるため、壁体内の水分量を常に、一定に保つことができるということです。

部屋の室内環境の評価の指標として、もう一つ人間にとって大事なものがあります。それは、「ぬくもり」という視覚から感じるものです。
水色や、コンクリートの壁は、冷たく感じ、オレンジ色や、布地には暖かみを感じます。

京都では、荒壁仕舞い(あらかべじまい)という言葉が使われ、それは、仕上げ塗りの手前で工事をおしまいにする。仕上げは、その家の娘さんが、嫁ぐころにしよう。(ようするに十年後)そのくらい家づくりを長いスパンで考える風土があるということです。

荒壁仕舞いの土壁は、とてもぬくもりを感じます。

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京都は、長野県と同じ、内陸性気候であり、寒暖の差が激しいところです。
断熱材の無い土壁のみの町屋に住む方の言葉です。
「本当に暑くて大変なのは、夏場の一週間だけです。あとはクーラーも何も入りません。ですからその時期は、風通しをよくしたりしてしのぎます。冬場も本当に寒いのは、一週間だけです。あとはファンヒーターで過ごしてます。
寒い時は、うちの中に井戸があるので、井戸のふたをあけて、部屋の湿度をあげたり、玄関に打ち水をして、うちの中の湿度をあげる工夫をして過ごします。井戸水は、水温が、年間を通して15度で一定ですからね。あとはとても快適です。ですからそのたった一週間のためだけに、家じゅうを断熱材で覆うなんていうのは、私はイヤです。」

本当の心地良さを知っているから、欲を言わない。完璧さや、最高を求めず、その一歩手前で止め、知恵と工夫で、建物と人が共生する。この建物の住み手にふさわしい、素敵な人だなあと感じ、このお話しをお聞きして、久しぶりにとても清しい気持ちになれました。

関連ホームページ
「土壁・漆喰」

~ぬくもりと情緒豊かな天井~
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